top of page
『無邪気』

 時野家には、長男の他に娘がいた。

 琴と呼ばれた娘は、幼いながらに賢い子だった。しかし、神はその賢さを代償に、彼女から感情を奪った。嬉しいこと、楽しいこと、腹立たしいこと、悲しいこと。自他の痛みや喜びを、例えどれだけわかりやすく教えたとしても、次の日には忘れてしまった。

 

痛みがわからない。それは人間味を失うことにも繋がる。琴は、人の死を不思議そうに見つめては、嬉しそうに笑ったのだ。

 それから彼女は、あまりにも痛むようなことに手を出すようになった。お気に入りの人形を切ったり、叩いたり。その度楽しそうに笑うのだ。

 

 しかし、父の不幸が彼女に渡ったのか……彼女は奇病にかかり、命を落とすことになる。 病名は『人形病』。彼女が切ってきた者達の呪いか、それとも偶然か……

 

「ねえお父さん、悔しいって、何?」

だから君を天使にしたんだ.png

​幼少期

bottom of page